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Episode 03
Outerknown Team
ブランドが貫き続けるミッションに忠実に、海外の提携工場の労働環境にも細かく目を配りながら、サステイナビリティを追求したアイテムを生みだしていくアウターノウン。そのロサンゼルスのオフィスを訪ね、製品作りに深く関わっているスタッフたちのそれぞれの想いを聞いた。いまファッションに求められているものは何か。自分たちのクリエイトするサステイナブルなクロージングは受け入れられているのか。さまざまな意識や自問自答のなか、彼らは何を目指し、何と向き合っているのだろう……。
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カリフォルニアのロサンゼルス。ヴェニスビーチやサンタモニカから少し内陸に入ったところにカルバーシティーはある。かつての映画産業の中心地はいま、アートギャラリーやレストランが立ち並ぶアートディストリクトを中心に活気を取り戻し、多文化都市として再びカルチャーの発信地となっている。そのアートディストリクトの近くに、アウターノウンのヘッドクォーターがある。
サステイナビリティとファッションの関係について語らうべく、ジョンはブランドを代表する主要スタッフに声をかけた。集まったのは、レキシー・ターズ(プロダクト&マーチャンダイジング)、リー・ヘイマン(ウィメンズ・マーチャント)、グレース・サァ(ウィメンズ・マーチャント)、オーブリー・ピーダーセン(サステイナビリティ&フェア・レイバー)、キリステン・アーヴィル(サプライチェーン&プロダクション)、ベサニー・マレット(メンズ・デザイン)の6人。
「それぞれチームに分かれてはいるけれど、デザインに関してはつねに緊密に協力しあっている。セクションに壁がなく、互いを必要とし互いにサポートしあっている柔軟な関係性なの」とリー。スタッフ同士の良好で円滑な協力関係がプロダクト作りに欠かせないという。
まず、エシカルさを貫くためにアウターノウンがつねに意識している製産現場の労働環境について、サステイナビリティー・チームのオーブリーが話しはじめた。
「私は主にフェア・レイバー(公正な雇用=労働者の人権を守り、しかるべき水準の賃金を支給すること)にフォーカスしている。デザイン・チームやマーチャンダイジング・チームと協力して、アウターノウンのために働いてくれている人に最高の賃金を支払えるようにするのが私の仕事。アウターノウンと提携するファクトリーの状況を把握し、問題解決に取り組んでいる。もっとも大きな問題が公正な賃金が支払われないこと。コロナ禍のファッション業界においては、多くのブランドが提携先を守らず、その結果たくさんの労働者たちが解雇されたのを目にしたわ」
華やかなに彩られたファッションの世界。しかし見えないところでは労働力の搾取が少なからず横行している。業界で常態化していたこうした問題を解決するのがフェア・レイバーだ。生産国がどこであれ、労働者の人権を守ることと、その透明性をアウターノウンは重視する。
1年前、アウターノウンは生産国を変更した。サプライチェーン・グループを率いるキリステンはその理由をこう説明する。
「100%サステイナブルであることに私たちは責任を負っている。だから製造だけでなく、原材料についても、どこの国のどの農場で生産された繊維なのかも細かく調べている。生産国を変えたのは、とても革新的で私たちと同じ思いをもってくれる他の生産先を見つけたから。製造の世界はここ5年で大きく変わり、新しいテクノロジーのおかげでファクトリーで働く人も仕事をしやすくなっている。私たちはそういうパートナーと仕事をすることを選んだ。彼らは実際サステイナビリティに対して新しいアイデアを持っていたりするから、彼らから学ぶこともできるし、そうしたさまざまなテクノロジーやアイデアをデザインに応用することもできる。安価に作ることが重要なのではない。私たちのパートナーである海外のファクトリーを大切にすることのほうがずっと重要だと思う」
オーブリーはこの英断を高く評価するが、生産先をすべて切り替えることは簡単なことではなかった。生産する工場を変えるとき、製品の手触りやフィット感が変わってしまうリスクが生じる。この点を踏まえて新たな生産国としてアウターノウンが選んだのは、ポルトガルだった。ポルトガルには繊維産業の長い歴史があった。
「生産地をただ移すというだけでなく、私たちは素晴らしいパートナーと仕事がしたかった。その点、ポルトガルは長くフランネルシャツの生産でも知られている。そうした職人技の原点に立ち返れたことも私たちの誇りになった」(キリステン)
他にペルーやルーマニアでも製品を作っている。彼らはそうした生産者たちと価値観を共有しいっしょに仕事をしている感覚をもち続け、良質な関係を築くことに心を砕く。この高い意識はおそらく他のブランドにはないものだろう。
進化し続けるタイムレスでクラシックなデザイン
マテリアルはサステイナブルか、労働者は守られているか、そうしたことを考えながらアウターノウンのプロダクトは作られている。サステイルナブルであるためには耐久性も重要。とはいえクロージング・ブランドである以上、そのデザインはスタイリッシュでなければならない。このバランスのとりかたが実に難しく、でもそれをやるのがアウターノウンだとプロダクトとマーチャンダイジングを統括するレキシーはいう。
「私たちはどうやったら唯一無二のものを作り、サステイナブルなアイコンになれるかをずっと考えている。クローゼットにずっと残り続け、毎日着られて、すごくいい気分になれる服とは何なのか。大多数の消費者はスタイル重視で、サステイナビリティは二の次。見た目が良くなければ買わない。だからアウターノウンはサステイナブルでありながらスタイリッシュでもありたい。そのうえで人間にとっても環境にとっても責任を負い、地球に優しい素材でスタイルを開発する。機能的で見た目が美しく地球に優しいという三拍子揃ったものを私たちは作ることができる。アウターノウンが掲げる価値観にワクワクしてくれる消費者は少なくないと思う」
スタイルとサステイナビリティを両立するというレキシーの言葉にジョンは大きくうなずき、こう続けた。
「私たちのスタイルは長もちする品質でタイムレスなデザインであること。つまり流行りを追ったアイテムではないということ。ブランケット・シャツが良い例だ」
彼らが7年間作り続けているブランケット・シャツには、確かにトレンドの匂いはない。トレンドに左右されずに同じものを作り続けてはいるが、そのなかでも進化させているのだとグレースは主張する。
「たとえばブランケット・シャツを、ウィメンズではアウターとして羽織れるクラウド・ウィーブ・シャツ・ジャケットや、ドレスのように着られるブランケット・シャツ・ドレスに進化させた。進化させつつ、自問する。ちゃんと長もちするものか。毎日着たいものか、と」
メンズのブランケット・シャツが当初から何も変わってないかといえば、実はそうではない。衿台やヨークの裏地に使うシャンブレー生地を変えるなど、さりげなくバージョンアップさせている。ほんのちょっとの進化で、シーズンごとにすごく新鮮なものに感じられるから不思議だ。
実際にデザインするベサニーは、タイムレスでクラシックなものに特徴的なディテールを加えていまっぽさを演出したり、いくつかの流行りのカラーを取り入れて、市場のトレンドとタイムレスなクオリティの両方から離れすぎないちょうどいいところを探っている。長く愛用できるものでありながら、最新のものに感じられ、世界と繋がっているように思える、そんなバランスを意識しているという。
「毎シーズン、新しさをどう取り入れるかをみんなで考えていく。誰もがつねにワクワクするものでなければならないから。私が気に入って、レキシーが気に入っても、次にキリステンと彼女のチームがどう思うか。品質的にテストにパスしないかも。それは縫製や染色や生地の強度に問題があるからかも。その場合、私たちは立ち止まりすべてを見直す。大変だけど素晴らしくやりがいがある挑戦だと私は感じている」(べサニー)
オフィス内では開発中のサンプルが何げなくラックにかけてある。何人かのスタッフがそれに気づき、触ったり話したり。そのうちちょっとした話題になり、ジョンがレキシーにそのアイテムについて問い合わせのショートメールを送ってきたりする。こうした誰もが気に留めるアイテムはたいていうまくいくという。それぞれのチームが愛情を込めて作っているものには、みんなが共有する真の情熱が注がれているのだと、ジョンは嬉しそうに語った。
価値観を共有するカスタマーと向きあい続ける
デザインにトレンド色は控えめだが、それでも自分たちらしい個性をシーズンごとに出していく必要がある。そのためのインスピレーションはどこから湧いてくるのだろうか。デザイナーのベサニーが服作りにかける想いを教えてくれた。
「デザインをするときのインスピレーションは、ロケーションから得られるフィーリング。私はここ南カリフォルニアで暮らし、海を見ながら毎日通勤している。時間によって海の色彩が変わるの。そんな美しい自然環境からすごく影響されている。たくさんの場所に魅了され、そこで見た色や景色から私たちはデザインしているんだと思う。いまアウターノウンでは、すべてのコレクションですでに使用されたマテリアルや繊維を再利用して製造することを目標にしていて、2030年までに循環型にシフトすることを目指している。ジョンはみんなに “What’s the Furthest Reaches of ~?(The Furthest Reachesとはもっとも遠い場所、つまり~の未知なるものを探し出すこと)”というフレーズを投げかけている。その答えを求めることは、サステイナビリティの未来のためのアイディエーション(新しいアイデアを生み出していくクリエイティブなプロセス)に欠かせないと思う」
今年からアウターノウンは、“スプリング&サマー”と“フォール&ホリデー”のふたつのシーズンで、数あるコレクションのなかからブランドを代表する10アイテムを「アウターノウン・テン(OKテン)」としてメンズとウィメンズそれぞれでセレクトしている。これらのアイコニックなアイテムはクラシックでタイムレスなだけでなく、ブランドを象徴するもっとも本質的なものでもあるという。
「OKテンは、私たちのお気に入りの服という感じ。私たちみんなが大好きで、いつもコーディネートを楽しみ、生活の一部になっているもの。カスタマーに私たちの視点や好みを理解してもらえたら嬉しい」(レキシー)
OKテンのコンセプトを打ち出して以来、製品開発についてもさらに真剣に検討されるようになった。これらの10点に入っていないもので、ブランドを象徴するアイテムが他にどれだけ必要なのか。目指すのは、時代を超越しながらもモダンであり、カスタマーの生活にフィットする汎用性の高いアイテムだ。
「汎用性は私たちがつねに考えていること。カスタマーに一年を通して提供できるアイテムを考えることが重要なの。特別な日のためじゃなくて、通年着られるものにすることが大切」(グレース)
「その通り。旅に一着しかジャケットをもっていけないとき、私はどこにでも着ていかれるジャケットを選ぶ。そうした汎用性は当初から重要なテーマだった」(ジョン)
アイテムを着るカスタマーにアウターノウンはいつも思いを馳せる。彼らがどんな人生を送っているのか、服を着るときが彼らの人生の楽しい局面であるか、どんなものを身につけ、どこに行くのを好むのか。そうしたことを理解し、何を提供するのが相応しいかをスタッフたちは話しあう。単にカスタマーのニーズに共感するだけでなく、カスタマーがアウターノウンを着る瞬間に立ちあいたいとさえ思っている。
ジョンをはじめスタッフたちは日々さまざまな課題をクリアし問題を解決しながらも、サステイナブルな価値観とエシカルな意識を共有するカスタマーと向きあい続けている。クロージングは着る人に満足と豊かさをもたらすのか、それがサステイナビリティとスタイルを両立したクロージングだったらどうかと、つねに自問しながら……。
最後にジョンは日本のある心もちについて語り、ディスカッションを締めた。
「私たちがずっと学んでいる日本の考えかた、それは“生きがい”。家族、私生活、仕事、趣味など、あらゆる要素が一体となって人生に心地よい流れを見出す。生きがいは、いま私たちがクロージングについて考えるときの中心になっているものなんだ。多くのブランドがライフスタイル・ブランドを名乗ってはいるけれど、本当にカスタマーのライフスタイルや人生のことを考えているのか。少なくとも私たちアウターノウンは、カスタマーの人生のすべてに寄り添えるブランドでありたい、そう考えているんだ」
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photo & text◎Takashi Tomita
direction◎RHC Ron Herman
Special thanks◎OUTERKNOWN
※こちらの記事は2022年6月に行われた取材を基にしています
【OUTERKNOWN STORY】
#01:OUTERKNOWNのこれまでの軌跡、これからの未来。 Interview:John Moore
#02:“Find Your Outerknown” を体現するセージの想い
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