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西日本サーフィンの聖地と呼ばれる徳島の波乗り文化は益々成熟しているが、一方で地方ゆえの医療問題は年を追うごとに深刻化している。そこで高齢化する地域の医療を守るため、若い医療従事者の力を得ようと医療機関が新たな試みを開始した。
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自身は未経験だけれども子どもにはサーフィンさせてみたいという親が増えている。近年のサーフィン事情について、そのような声を何度か聞いた。四国の徳島県を訪れたときのことだ。
世界最大級のうずしおが見られる鳴門市から高知県境の海陽町に至るまで、長く太平洋に面する徳島は海洋資源に溢れる。その資源には波も含まれ、子どもに優しい小波から、世界レベルのビッグウェーブまでが点在している。
そしてこれら全国的にも稀少な環境を求め、1970年代後半から’80年代にかけて移り住んできた関西サーファーも交えて、サーフィンの土壌は耕されていった。海を生湯がわりに育った彼らの次世代はローカルキッズとして全国、さらに海外で活躍。四国は名実ともに西日本サーフィンの聖地と呼ばれるまでになった。
そのローカルキッズたちも今や30~40代となり、親として子を持つ者も。第3世代の声はまだ幼くか弱いが、それほど遠くないうちに海の中での存在感を増していくのだろう。そんな独特の風土に加えてオリンピック競技化などでサーフィンがより一般化。冒頭に記したようなサーファーが増加し、四国の波乗りシーンに一層の彩りを与えるようになったのだ。
ただその一方で、地方であるがゆえの声も聞こえてきた。少子高齢化、空き家の増加、医師不足をはじめ地域の医療体制が不十分であるといった社会問題である。
「徳島県全体の人口は2023年に70万人を切りました。東京であればひとつの区や市にそれだけの人口があるでしょうし、かつて勤めていた愛知県は人口750万人です。また高齢化率というデータがあります。高齢者(65歳以上)の人口を総人口で割ったもので、全国の平均は29%に対して徳島は35%。都道府県別に見ると4番目に高い数字です。さらに2022年のデータによれば出生数は4100人で亡くなった方は1万人と、毎年6000人ずつ人口が減っている。これが徳島県の実情で、医療界も同様なんです」
想像を超えるスピードで高齢化が進んでいる状況を説明してくれた阿南医療センターの前田徹院長は、続けて「今のままでは、やがて地域の医療を保てなくなる」と叫びに似た声をあげた。
徳島市内からドライブで1時間ほど南下したところにある阿南市は四国最東端の地方自治体。太平洋に面する東側にはサーフスポットもある同市において、阿南医療センターは398の病床を有する地域の中核病院だ。病院の規模は県内4番目を誇り、これまで10万人に及ぶ地域住民の健康と暮らしを守ることに専心。しかしそれほど重責を担う立場ながら、病院は高齢化の波に飲まれている。
前田院長が続ける。
「阿南医療センターの常勤医師数は53人。年齢別にすると、最も多いのが60代なんです。たとえば産婦人科で最年長の先生は70歳近く。今も月に複数回の産直(産婦人科の当直)をこなしています。このような感じで、病院全体で70歳前後の先生が4~5人いて、その方たちにはまだまだ頑張っていただかないと地域の医療を保てないという状況なのです」
できるだけ早く若い医師に来てもらいたい。そのような切実な思いがあるのだ。
では、なぜ若い医師は来なくなったのか。そこにも理由はある。
平成16年から制度が変わったことにより、大学の医学部を卒業した学生たちは研修先を全国から選べるようになった。すると研修後の勤務先もその近隣で選ぶ流れができ、特に地方の大学では、その周辺地域に卒業生の若い医師が留まらない状況が生まれている。
「阿南に来る前にいた愛知の病院では、全国から学生を集める側でした。どこにでも行けるのならば、多くの学生は良い経験のできる病院を選びます。その気持ちに対して、医療環境の充実ぶりや、多彩な経験ができることをアピールしていました。半面、阿南では学生を取られる経験をしています。徳島大学医学部を卒業しても徳島に残らない。そのような流れが20年近く続いていて、いよいよ何か手を打たないとならない。常日頃そのように考えていたときに、県南にある海陽町の町立海南病院からお声掛けを頂いたんです」
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