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カラーワークの達人、アレックス・ヴィラロボスが披露したラミネートの妙技 / RHC Ron Herman 10周年記念企画

カラーワークの達人、アレックス・ヴィラロボスが披露したラミネートの妙技 / RHC Ron Herman 10周年記念企画

クラフツマンシップの聖地サンディエゴで名グラッサーと評されるアレックス・ヴィラロボスが、同じサンディエゴの若手シェイパーたちとともに2023年6月下旬に初来日をはたした。四半世紀以上グラッサーとして第一線で活躍し続ける彼のグラスワークは世界的に見てもトップクラス。今回はRHC ロンハーマンの誕生10周年記念のパーティーでその熟練技のラミネートを披露してくれた。職人でありアーティスト。10周年のために作られたボードのカラーワークも目をみはるものだった。サーフボードを語るとき、とかくシェイパーばかりに光が当たりがちだが、実はボードの印象を決定づけるのはグラッサーであることを、アレックスは自らの仕事で示していた。

この日、RHC ロンハーマンみなとみらい店内には、作業のようすを外から見ることができるシェイピングベイが特設され、ライブシェイピングとライブラミネーティングが披露された

「サーフボードの多くはアートピースだと思う。だからグラッサーはつねにクリエイティブでいる必要があるんだ」

 そう語るのはサンディエゴのサーフボード・インダストリーにおいて唯一無二のグラスワークで確固たる立ち位置を築いているグラッサー、アレックス・ヴィラロボス。6月下旬、横浜みなとみらいのRHC ロンハーマンの店内に彼の姿はあった。そこはRHC ロンハーマンの10周年を祝うアニバーサリーパーティーの会場。アレックスのほかに、スペシャルゲストとしてカリフォルニアからライアン・バーチ、デリック・ディズニー、ザック・フローレス、バレット・ミラーを迎え、この日のために店内に設えたシェイピングベイで、ザックとバレットがログを、ライアンとデリックがフィッシュを削り、それをアレックスがラミネートするという趣向だ。

熱帯魚が泳ぐ水槽越しにもシェイピングベイを覗くことができた。ふたりがかりでログを削るのはザック・フローレスとバレット・ミラーのペア

 アレックスはスケルトンのシェイピングベイで作業するシェイパーたちをじっと見つめ、それぞれのボードを購入するカスタマーに色の好みを尋ね、頭のなかでカラーイメージを膨らませていた。

「お任せで、というオーダーがいちばん困るんだ。やっぱりボードのカラーは乗るサーファーの心理面に影響するものだから、乗り手が好きな色を知りたいし、少なくとも嫌いな色は避けたいというのがグラッサーの本音。もうひとつ困るオーダーが、私が以前に巻いたのと同じ色にしてほしい、というもの。ときには一本前のボードに使った顔料の残りをミックスして色を作ることもある。だから厳密に同じ色を再現するのは不可能なんだ」

 この日RHC ロンハーマンの店内には、バレットによるTHCサーフボード、そしてライアン、デリック、ザックそれぞれがシェイプしたボードがラックにきれいに並んでいた。ラミネートはもちろんアレックス。これらのボードはすべて10周年を記念して作られたスペシャル・エディションで、カラーワークはどれも秀逸。アレックスへのオーダーは「スペシャルなエディションだから、何かスペシャルなラミネートを」というものだった。そう、いちばん困るやつだ。しかし彼は時間をかけて過去の経験からアイデアを練り、期待どおりの美しいクオリティで仕上げた。パーティーに集まったオーディエンスたちがその完璧な仕上げに感嘆するのをみて、アレックスはとても満ち足りた気持ちになっていた。

 フロリダ出身のアレックスがカリフォルニアにやってきたのは19歳のとき。理由は、いい波でサーフィンしたかったから。実にシンプルでサーファーらしい。それ以来、サーフボード・インダストリーで仕事をして30年、プロのグラッサーとしては26年になる。最初に師事したのはムーライト・グラッシングのゲイリー・ステューバー。クラフツマンシップの聖地と呼ばれるサンディエゴでグラッサーたちからマスター中のマスターとして崇められるレジェンドである。名匠ゲイリーから基礎を学んだあとは、名だたるグラスショップを渡り歩き、身につけた技術に磨きをかけていく。早くから腕のいい職人として認められるようになり、とりわけジョエル・チューダーからは高く評価され、かれこれ20年以上ジョエルのボードのラミネートを任されている。

 一時期アブストラクトでも名を馳せたが、その後はフリーハンドの縦ストライプのグラデーションなどで圧倒的なテクニックを発揮し、一躍有名に。ひと目でアレックスの仕事だとわかるシグネチャー・カラーワークとでもいうべき個性が彼のラミネートにはある。美しくハイエンドに仕上げる職人はたくさんいるが、見ただけで誰のラミネートかわかる職人はそういない。

「特別なテクニックを生み出したように思われるかもしれないけど、基本的には若いころに教えてもらったことに磨きをかけ、それにアレンジを加えただけなんだ。色に関しては独自の方法でいい色を作り出してきたとは思うけど、技術的なプロセスは同じ」

 師匠のゲイリー・ステューバーは以前、アレックスのことをこんなふうに評している。「彼のいいところは学んだことから自分のスタイルを作りあげていること。腕のいいグラッサーはそうした完璧なスタイルをもっているものだ」

 アレックスのスタイルを模倣したものも見かけるが、やはりオリジナルには敵わない。独特のカラーセンスと頭のなかにある色を作り出せる腕が違うのだ。彼自身いくつか好きな色はあるものの、それらは何色ともいいがたい微妙な色。十数年前に初めてアレックスに会ったとき、彼のパーソナルボードを見せてもらったことがある。それはブラウンともクリームとも緑ともいえない微妙なカラーで、ボトムとデッキとピンラインがそれぞれ同系統の色味でまとめられていた。レールのラップの幅とピンラインの妙もあり、まるで70年代のヴィンテージボードのように見えた。

フォームにクロスをかけてカットしたら、入念にカラーをミックスし準備。単色と違いデッキ面にマーブルのレジンを少しずつ満遍なく垂らしていく

「いまはソーシャルメディアがあるから世界中の職人のいろんなカラーワークを見られる。だから私たちグラッサーは互いに影響しあい、刺激しあっている。いい時代だよ」

 いまアレックスは「ラミネーション・サンディエゴ」というグラスファクトリーを率いている。グラッサーは彼だけだが、腕のいいクラフツマンたちがいる少数精鋭の職人集団だ。

「私たちのサンダーのアレックス・バニイェイはサーファーズ・ジャーナルのサンディング特集でも取りあげられている職人。とてもうまいピンライナーで、うまいポリッシャーでもグロッサーでもある。それとグラスオンフィンやホットコートを任せているジャスティン・ペティックスもすごく有能。彼は私とサンダーの架け橋的な役割も担っている。分業制なので次の工程の職人がやりやすいようにする必要があるんだ。そしてアレックスが仕込んでいるグロッサーのトミー・クロール。あとはベテランのサンダーがパートタイムで手伝ってくれている。シェイピングベイも併設されていて、そこはライアン・バーチが使っているよ」

 

ラミネートする際にもっとも気になるのが、削り終えたフォームが完璧かどうか。表面の凹みや小さな穴や粗さがないかをしっかりチェック。「自分で直すこともあるが、シェイパーに頼んで直してもらうこともある」とアレックス。厳しい職人の目になっていた

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