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陽の光に透けるスケルトンの中空サーフボードは、かなりアバンギャルドだ。ボードをないものとして波に乗る、というコンセプトを考えたのは、サン・オブ・コブラを主宰するフランス出身のボードビルダー、ポール・ルフェーヴル。プロダクション・シェイプで鍛えあげられたシェイピングの腕はもちろん、アーティスティックなレジンワークの個性でも注目を集める。
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2年前にフランスでシェイパーのトリスタン・モウスやUWL(フランスのサーフボード・レーベルでありファクトリー。Blue.80号にて紹介)のファクトリーを訪ねた際に、会うことが叶わなかったボードビルダーのひとりがポール・ルフェーヴルだった。彼に興味をもったのは、そのボードの細部に宿る美意識に惹かれたから。彼はいまアメリカにいる。カリフォルニアのコスタメサにあるウェアハウスをリノベーションした工房兼ショールームを訪ねると、そこには洗練されたオシャレな空間が広がっていた。
「古いウェアハウスを改装して自分たちでペンキを塗ったんだ。シェイピングベイはショールームの奥にある。ガールフレンドがフォトスタジオとしても使っているし、車いじりをするスペースもあって気に入っている」
ガールフレンドとは『ヒアウィズ』マガジンでクリエイティブ・ディレクターを務めていたフランスのフォトグラファー、セレナ・ルトン。つまりここはフレンチ・カップルのクリエイティブなシェアスペースというわけだ。
北フランスのノルマンディ出身のポールの初シェイピングは14歳のとき。友だちのためにボードを作ったりディングリペアしたりボードにアートを描いたりして、稼いだお金で庭にシェイプ小屋を建てたという。ベルギーでイラストレーションとグラフィックデザインを学び、アートの素養も身につけた。その後ワーキングホリデーでオーストラリアに1年間ステイ。シドニーからヌーサまでのコースト沿いのファクトリーを転々として、主にグラッシングの仕事をこなした。インダストリーの中心でピグメントやさまざまなカラーワークの手法を本格的に学ぶことができた。彼の個性的なグラスワークの基礎はこのとき培われる。フランスに帰国するとビアリッツに住み、ビダーにファクトリーをオープン。ちなみにそれはいまロビン・キーガルがいるファクトリーだ。同時にサンセバスチャンのプカス・サーフでも仕事をするようになり、プカスがロストのディストリビューションをしていたことから、マット・バイオロスと出会う。ポールとトリスタンはその腕を見込まれヨーロッパでロストのシェイプを任される。これによりカリフォルニアとのコネクションが築かれた。
「ビダーの家にトリスタンとシェアして暮らし、いっしょにレジンティントやカラーピグメントをショートボードに施した。いい時代だった。UWLで働いていたこともある。おかげでグラッシングとサンディングだけでなく、ホットコートやポリッシュなどすべての工程を習得できた。その後マットがカリフォルニアに呼んでくれたのでビザをとって渡米し、ロストのためにフルタイムで働いた。マットからはシェイピングについて多くを学んだよ」
これまで数々のファクトリーでグラッシングをし、いろんなシェイパーのフィニッシュボードをじっくりと見て学んできた。それが彼のデザインに幅と深みを与えている。自身のボードブランド「サン・オブ・コブラ」をスタートしたのは3年ほど前。ブランド名はお気に入りのフランスのバンドの曲名を英訳したものだ。
ポールのデザインするボードは、ショートレングスからミッドレングス、ノーズライダーまでとバリエーション豊か。どのボードもクリーンでシンプル。なかでも、ツインフィンが大好きだという彼が作るラウンドテールのツインは高い評価を得ている。試行錯誤の末に生み出したディープコンケーブが特徴だ。2018年にはロストともコラボし、マットのアウトラインに彼のラウンドツインのボトムを組み合わせた〝コブラキラー〞モデルを作った。
「私のボードにはハンドシェイプとマシーンシェイプがあり、ハンドには小さな真鍮のプレートのロゴをつけている。マシーンのほうはステンレスのプレート。でもアメリカではあまりストックボードは置かないようにしている。直接カスタマーとやりとりして作りたいからね」
プロダクション・シェイパーとしての仕事と、自身のブランドでの仕事は分けている。なかでも彼が凝ったのがレジンワークだ。マーブルなどのレジンアートも多い。フレークと呼ばれる砕いたレジンを散りばめるユニークなレジンワークも。この見た目がサン・オブ・コブラのオリジナリティ。こうした個性は他ブランドからも注目され、昨年はリップカールとコラボしたサン・オブ・コブラ・コレクションというラインが誕生、ポールの世界観を落とし込んだTシャツやボードショーツ、ウェットスーツなどがリップカールからリリースされた。アーティスティックなレジンワークは異業種からも評価され、コラボのオファーは引きも切らない。家具メーカーともコラボし、クールなマーブル模様の椅子も作った。
「グラフィックデザインやイラストレーションを学んだことが間違いなく影響していると思う。いまもスノーボードやダイビングフィンにアートを描いたりしている。サイドジョブって感じだね」
ショールームに気になるボードを見つけた。スケルトンのツインフィンだ。UWLの時代から作っているというスケルトンボードは、これが4本目。デイドリーム・サーフショップのカイル・ケネリーに3本目をテストライドしてもらい、強度面での問題点をクリアすべく改良したボードだ。
「サーフボードなしでサーフィンする、ボードのことを忘れる、という発想から透明なボードを作ってみた。カーボンとレッドウッドのストリンガーを入れているけど、なかは空気だけ。フォームじゃなくて空気による浮力。すごくおもしろいフィーリングを得られる。今度5本目を作る予定だ」
彼のボードからはヨーロッパ特有のセンスが薫るが、地元フランスはカリフォルニアに比べるとまだサーファーもサーフカルチャーも成熟していないらしく、こうしたユニークな表現はアメリカでこそエクスペリメントできるという。楽しみながらの挑戦だ。機能性はいうにおよばず、プラスアルファのアーティスティックな挑戦はこれからも続いていく。
(Blue.85「磨き続ける独創の美学」より抜粋)
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photo & text◎Takashi Tomita
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