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SITUATION
#01
歴史と様子、そしてシェイプとグラスワーク
皆さんは、近年新しくデビューするシェイパーが増えていることに気づいているだろうか。一方、シェイプされたフォームをグラスするビルダーたちと、グラスファクトリーの動向についてはどうだろう。この連載のポイントをひと言でいえば、「日本のサーフボード作りのグラスファクトリーに起きてきている熟練職人の減少と不足状況」について。
ここでひとつ前置きしておくと、差別的な区別ではなしに「ショートボード専業、あるいはそれに近い製作現場」はあえて話から外す。話の対象はつまり、およそ60年以上にも渡って積み上がってきた「グラスワークのトラディショナルなノウハウとテクニック、そしてそれを習得した職人たちとその現状」。そういう職人たちが作るサーフボードはつまり、トラディショナルなログから、現在オルタナティブという括りで捉えられているようなサーフボードたち。
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サーフボードはシェイパーによって削られて、グラスファクトリーでグラッシングされて完成することは、サーファーであれば誰でも知っている。そのようなシステムのルーツはボードのマテリアルが主にバルサウッドだった1940年代のカリフォルニアにある。ガレージや小屋や場合によっては屋外の空き地などもスペースとして使われるプリミティブな環境から、ファクトリーとしての体を整える1950年代後半頃まではそれほどの年数を要していない。
多くのファクトリーはシェイプルームからグラッシングなど各プロセス毎によりいくつかの部屋に区分けするというのがおよその構成で、当時それらのファクトリーはブランドを運営する自社工場と言える形態。このシステムは基本的には現在まで続いているが、1970年代に入るとそれまでの形態だけでなく、シェイパー個人が独立したシェイプルームを持ち、ファクトリーはそれらシェイパーが持ち込んでくる仕上がったフォームをグラスする(私たちはその作業全体を、巻く、と言うことが多い)という分業的なスキームも増え始めた。
そのような形態が一般化し始めたファクトリー(グラスショップ)は、ほとんどの場合シェイプルームも工場内に持っていて、ファクトリーの自前ブランドだけでなく、シェイプルームを持たないシェイパーたちに場貸しして、彼らのグラスワークも引き受けるというビジネス形態に発展。それはそのまま現在どこでも見られる最も一般的なサーフボード作りの現場形態になっている。
さて、サーフボードの製作フローはシェイプから始まり、グラッシング(シェイプ以降のサーフボードとして仕上がるまでの全行程)にはいくつものプロセスがある。
それらはプロセスごとに専門性の高い技術と作業を要していて、例えばエアブラッサー、ラミネーター、サンディングマン、ポリッシャー、などというように(実際のプロセスはさらに細分化されている)、作業部屋だけでなくプロセスごとに職人が分かれる。プロセスによっては職人が複数人で担当することもある。
このような製作環境はカリフォルニアでは現在でも多く見られる形態だが、ここ日本ではこういったグラスショップは近年縮小傾向で、ひとりの職人が複数のプロセスを作業する傾向も進んだ。
日本では1970年代半ばから1990年代初頭にかけて(ちなみにこの時代はシーンの大半がショートボード・マーケットである)、国内で流通するサーフボードのシェアは国産が多くを占めていた。比較的規模の大きいファクトリーとは、つまりブランド毎が有する自社工場という形態が少なくなかった時代。その後、ロングボード需要へのシフトや今でいうオルタナティブ系シーンの台頭を契機に輸入サーフボードが伸び、加えて近年は製法のまったく違う、サーフボード的に見れば第3国製の製品輸入の増加などの事情によって、現在は規模の大きいファクトリーは減少した。
その一方でここ数年、シェイプを始めるサーファーが増えている。皆さんも、シェイプを始めて間もないシェイパーがオリジナルブランドをスタートさせた例をよく見かけると思う。それを可能にしたのは何よりもブランクス・デザインの発達。良いデザインのブランクスがたくさん揃う時代になったのである。
サーフボード業界は2005年12月、突然のクラークフォーム廃業により大激震に見舞われたが、そのクラークフォームの長年にわたるデザイン改良は現在のブランクス業界にノウハウとデザイン・アイデアとして受け継がれて、マーケットのニーズに応じたボードデザインに近いブランクスのバラエティが豊富に揃うようになった。そんな背景もあり、今ではノウハウをもつ経験者のレクチャーを受ければ、シェイプ初心者でも、まあまあ乗れるというほどのサーフボード・シェイプへのアクセスはそれほど壁が高くない。グラッシングを引き受けてくれるグラスショップとのリレーションをクリアすれば商業ベースにすら組み込みやすい。
ちょっと時代を巻き戻して、例えば25~30年ばかり前(おおよそ2000年前後)までのサーフボードを知っているサーファーなら覚えがあると思うけれど、かっこいい板とそうではない板はひと目で違ったはず。もちろん今でも本当にいい板とそうでない板はシェイプもグラスも雲泥の差があるが、今では少なくとも素人の目をすり抜けたり、“けっこう調子いい板を削る”くらいまではかなりハードルが下がったのである。
さてここで、シェイプを体験するサーファーが増えるのはいい事として、「それは誰が巻く(グラスする)」のか。
それがこの連載の本題なのだが、ここでまずグラッシングに携わる職人の報酬が長年ほとんど変わっていないということを話しておきたい。冒頭で述べたように、本記事ではBlue誌を愛読し、ましてやこの記事を読むサーファーが好むであろうデザインやグラスが施されるような板たちにフォーカスしている。そんなみなさんが気に入って手にする板のクオリティや雰囲気は、それらの職人の経験と技術と、何より今や彼らの存在そのものが根拠なのである。しかも、それらの職人たちは減り続けている。分かっているサーファーなら想像がつくように、どんなにブランクスが発達しても、シェイプはビジネスとして人手に渡せるほどのモノになるまでに本来ならばかなり時間がかかるものだし、同じようにグラス職人がいいシェイプの板の仕事を任せてもらえるようになるにも、大変な経験と時間が要るのだ。
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第2回へつづく
text◎Chan Mitsui illust◎Hirockshow
本記事はBlue.97号から抜粋したものです。
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