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ケリー・スレーターがアウターノウンに込めるフィロソフィー

ケリー・スレーターがアウターノウンに込めるフィロソフィー

Episode 06
Kelly Slater

サザビーリーグが正規代理店となったことで、今年3月から、いよいよアウターノウンが日本で本格的に始動する。これまでクリエイティブ・ディレクターのジョン・ムーアに始まり、ブランドのアンバサダーや体現者、デザインや革新的な取り組みなどを、サスティナブルな視点で紹介してきた本国取材による連載も、今回で最終回を迎える。その最後を飾るのは、世界最高峰のサーファーであり、アウターノウンのファウンダーでもあるケリー・スレーター。海洋汚染を憂う高い意識と、解決のために起こす正しいアクション。積み重ねてきた想いの先に築かれた哲学を、ケリーはアウターノウンと共有していた。

「いまの私の最大の目標は、2024年のパリ・オリンピックの出場権を獲得すること。予選を勝ち抜くのは簡単なことではないけどね。大会が行われるのはタヒチ。あそこの波は私の得意とするところだから、ぜひ出たいと思っているんだ」

 アウターノウンを2015年にローンチしたときのインタビューで、ケリーは「いつか引退することを毎日考えている。いっぽうで生き方の哲学として自由でいたい」と葛藤する思いを口にしていた。あれから8年近くが経った。50歳を超えてなお、彼はコンペティションシーンの第一線に立ち続けている。子どものころに掲げていた目標は、ツアーで優勝していつか世界チャンピオンになることだったが、それもすでに11回達成している。いまは大好きなサーファーと対戦するとき、その挑戦できる機会にワクワクしているという。それは初心に戻ったかのようなピュアな心持ち。彼のいまのそうした心境を思えば、パリ・オリンピックへの挑戦も少年時代の夢の延長なのかもしれない。

 ツアーサーファーとしてケリーはかれこれ30年ものあいだ世界を転戦し続けている。しかし多くの人がその活躍を目にしているコンペティション・サーフィンは、彼の人生のほんの一部でしかない。それ以外のほとんどの時間を彼は、文字どおり自由にサーフィンを楽しみ、訪れた土地の人々や文化と触れあい、さまざまなインスピレーションを得ている。長年にわたるその旅の経験の蓄積が、ケリー・スレーターという人間を形成しているといっていい。

ワールドチャンピオンに11回輝いた世界屈指のサーファーであるケリーが、盟友のクリエイティブ・ディレクター、ジョン・ムーアとともにアウターノウンを立ち上げたのは8年前のことだった

「人類が地球に与えている環境負荷の大きさを実感するようになったのは、私が20代、いや30代になったころだっただろうか。サーフィンをするために世界中を旅してきた私は、良くも悪くも海とその周辺で起きている悲惨な汚染と廃棄物の問題を目にしてきた。バリのような美しい場所でサーフィンしていても、その近くは信じられないほど汚染されている。世界中の海岸沿いのすべてのものに触れている私たちサーファーは、危険をいち早く察知し警鐘を鳴らす炭鉱のカナリアのようなものだ。環境の問題を自覚するようになってから、同時にその責任の一端を担っているとも意識するようになった。何を買うか、何を語るか、何に時間を費やすか。誰もが自分にあった方法でなんらかの影響を与えることができる。だから多くの人が正しいと思えるアクションを起こすことを望んでいるよ」

 ケリーは、自分が正しいと思えるアクションを起こした。それがアウターノウンだった。まだ大手サーフブランドにスポンサーされていたときから彼は、環境に責任を追うだけでなく生産の現場で働く労働者にも社会的責任を果たすクロージングブランドをやりたいというアイデアを温めていた。しかし大手ブランドの上司からは「君が思い描くブランドを構築することは不可能だ。それでもやるなら、幸運を祈る」と言われたという。

「それは否定的な言葉ではなかった。ただ彼にはどのようにやればうまくいくのかがわからなかったのだろう。私は口だけじゃなくて行動で示す義務があると感じた。自分にもできることを証明し、みんなが変化を起こすことができるんだという道筋を示したかったんだ」

 旅をするなかで実際に目の当たりにしてきたさまざまな現実。それらをどのように対処すれば解決できるのかを真剣に考えた結果、ケリーはサスティナブルな服づくりの実現に向けて一歩踏みだす。それは誰も切り開いたことのない道だった。

自ら行動で示すべく、信念に従いつねに前人未到の領域に挑み続ける。それはFind Your Outerknownの精神だ

ケリーによるテストでプロダクトは磨かれていく

「いまはどこのブランドもサスティナビリティという言葉を唱えているが、アウターノウンを始めた2015年当時はいまほどバズワードではなかった。環境の観点から、持続可能で責任のあるサプライチェーンを確立し、リサイクル・マテリアルやオーガニック・マテリアルをコストに関係なく可能な限り取り入れたいと私は考えていた。利益よりも理想を優先することはほとんど革命的だったかもしれない。ただ製品の価格については早い段階で酷評されたけどね。でも私たちが作っているのは安価なファストファッションの服ではない。責任ある方法で何かを行うにはどれだけの費用がかかるか、人々はよく理解していなかったし、私自身もそうだった。私たちアウターノウンは生産現場にも目を向けている。工場がどのようにビジネスを行っているか、誰を雇っているか、労働条件はどのようなものかなど。環境も大事だけど、人を大切にすることは私にとって何よりも重要なんだ。責任ある方法でビジネスをするには、より多くのコストがかかる。そのかわり私たちの服は保証されている。価格に値する高品質のものだと自信をもっていえるよ」

初期のトランクスにはECONYL®を使用。そのコンセプトはいまも受け継がれ、ケリーのシグネチャー・アイテムであるApexトランクスは100%廃棄物から作られたリサイクル・ポリエステル製

 いまサスティナビリティはファッション業界で当たり前のキーワードとなった。リサイクル・ファブリックやオーガニック・ファブリックを使うことに多くのブランドが積極的だ。アウターノウンでは初期のコレクションから、漁網やその他のナイロン廃棄物から作られるリサイクル素材ECONYL®を使用したアイテムを作っており、そうしたムーブメントの先駆けとなった。そしてこれらのリサイクル素材もまた進化しているという。

「私たちの最初のトランクスはECONYL®で作った。実はアウターノウンがECONYL®を市場に最初に送り出したブランドなんだ。初期のものは伸縮性のない素材だったが、トランクスの評判がよく、さらにアイテムを拡大していくなかで追加の素材を取り入れることにした。いま私が気に入っているApexトランクスは4ウェイストレッチのリサイクルポリエステルを採用して開発したもの。素材とともに私たちのアイテムもつねに改良と進化を繰り返しているんだ」

 Apexはサーフィンだけでなく、その他のアクティブ・スポーツにも最適だという。またポケット付きのApexハイブリッドは、ふだん履きとしていつもケリーが愛用しているもの。いま彼はオリジナルのデザインのひとつを復活させ、それをノンストレッチツイルで作ってほしいとデザインチームにリクエストしている。スポーツ仕様ではなくライフスタイル寄りのアイテムだ。「もう少し旅向きって感じかな」とケリー。

2024年のパリ・オリンピック出場を目指すケリー。プロトタイプをテストしながら、彼のあくなき挑戦は続く

 アウターノウンにおけるケリーの大事な役割のひとつに、フィールドテストがある。彼はいつもオフィスにはいないが、サーフィンや旅を通じてプロダクトをテストし、ブランドやデザイン的要素について考えを巡らせている。世界中のどこにいても彼のもとにはアウターノウンのチームからつねにプロトタイプが送られてくるので、それらを可能な限り着用し、着心地や改良のアイデアをクリエイティブ・ディレクターのジョン・ムーアやデザインチームにフィードバックしている。

「トランクスは、ハワイみたいに温かい水のポイントでのサーフィンはもちろん、リラックスしてくつろいでいるときでも着ていることが多い。どうしたらもっと快適で上質なものにできるかをいつも考えながらね。テストしてもらうために友だちにも渡してフィードバックを得ている。またチームには、マーク・カニンガム(ハワイのウォーターマン)やライマナ・ヴァン・バストレー(タヒチ・チョープーのローカル)のようなアンバサダーもいて、彼らもいっしょにテストしているんだ。いま、チームはApexのアップグレードに取り組んでいるところ。ウエストバンドの構造や、より良いパフォーマンスを実現するためのディテールについてジョンに何度も気づいたことを送っているよ。私はアイデアを持っているが、それを実現するにはブランドのスタッフたちのほうが断然優れているということをアウターノウンを始めてから学んだんだ。重要なのは頼れるチームを持つことだね」

 ちなみにチームでは、2024年の春に向けて初のウィメンズ・トランクスにも取り組んでいるとか。どのような仕上がりになるかをケリーは楽しみにしている。

旅を通してたくさんのモノや人から得たインスピレーションが、プロダクトやデザインのアイデアの源となることも

環境問題への意識を促す、ケリーのメッセージ

 アウターノウンがローンチしたころよりも、世界ではいまプラスチックごみによる海洋汚染の問題がより大きくクローズアップされるようになった。早くからこの問題に気づいていたケリーは、海洋プラスチックに対する取り組みが急速に世界的ムーブメントになっている現状を歓迎している。

「海は本当にプラスチックであふれているんだ。子どもたちには環境の問題にもっと触れ、つねに意識を持ってほしい。そしてどうすれば解決できるかについてもっと真剣に考えてほしい。まずは起きている問題を認識することが問題解決への第一歩だと思う。私たちが活動を始めたころと比べると問題意識は世界中に広がり、いまでは個人やブランドだけでなくさまざまな分野のリーダーたちが環境問題に向きあうようになった。私たちはこの変化の大きな部分を担ってきたと信じたい。環境への影響を少なくするためにさらに良い方法で製品を作り、そのアプローチをつねに進化させ続ける必要があると、私は日々旅先で思い知らされている」

同じ志を持つ世界中の仲間と意識を共有し、コミュニティーに広く強くサスティナブルなメッセージを発信し続ける

 ケリーの友人には、海と河川にあふれるプラスチックごみを取り除くための技術を開発し不要な廃棄物の解決策を見出す方法を模索しているNPO「The Ocean Cleanup」のファウンダーのボヤン・スラットなど、志をともにする仲間がたくさんいて、絶えず互いに刺激を与えあっている。海に住む海洋生物を守るために、アウターノウンでは何ができるのか自問自答を繰り返す。そのうえでケリーは、ECONYL®のような再生素材を探してもっと活用することも急務だという。

「これからの数年間、私自身もっと自然とのつながりをより強くしていきたいと思っているんだ。アウターノウンのカスタマーが自然環境とつながることができるような製品もより多く取り揃えたいと考えている」

 アウトドア・アクティビティにフィットするアイテムを提供することで、人々により自然と触れあうことを促し、そこから環境問題への気づきを得てほしいという思いがケリーにはあるのかもしれない。サーファーにとっては海でのパフォーマンスアイテムがさらに増えることになるだろう。

自然とのつながりをもっと深くしていきたいと語るケリー。そこで培う感性がアウターノウンのアイテムに宿る

「私たちにできるもっとも重要なことのひとつは、他の企業に影響を与えることだ。だから他の企業の模範となるような行動をつねに心がけている。それは完全な透明性を保って服を作ること。私たちアウターノウンはこの哲学に基づいて設立され、それをモチベーションに活動してきた。私は自分たちがしていることを友人たちにできるだけ話すようにしている。それは私からのメッセージ。そう、私はそのメッセージを広く伝えるために大手ブランドを離れてアウターノウンを立ち上げたんだ」

 ケリーのメッセージ、それは「より良いことをするのは私たち全員の責任である」。サスティナブルなコミュニティーの先駆者であるアウターノウンは、このケリーの信念とともにブランドとして成長し進化し続けている。これからも業界内外に大きな変化を促しながら……。


photo◎courtesy of OUTERKNOWN
direction◎RHC Ron Herman
text ◎Takashi Tomita

BLUE. 102

2024年5月10日発売

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