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Patagonia「受け継がれるクラフトマンシップ」 トークセッション

Patagonia「受け継がれるクラフトマンシップ」 トークセッション

村岡俊也(T.M) ではよろしくお願いします。こうして親子で登壇というのはどうですか?

植田梨生(R.U) いや滅多にないことですし、恥ずかしいですね。

植田義則(Y.U) 私もなんだか苦手な感じですよ(笑)。

T.M でも舞台裏からすでに興味深いお話ばかりでしたよ。まずはパタゴニアとYUサーフボードの関係から教えてください。

Y.U もう20年以上前になりますが、梨生が高校卒業後にカリフォルニアに住むということになり、ベンチュラやサンタバーバラも訪ねました。ベンチュラにはパタゴニア本社があり、藤倉克己さん(前パタゴニア エグゼクティブ・マーケティング・ディレクター)にはとても良くしてもらいました。

R.U 本社の食堂で食事をさせてもらったり、イヴォン・シュイナードのご自宅で泊めさせてもらったこともありました。サーフランチというなかなか入れないプライベートビーチでサーフィンをさせてもらい、息子のフレッチャー・シュイナードやジョシュ・ファブローなども一緒で、まるで映画の世界みたいでした。

T.M 植田さんとジェリーさんの関係はさらに古いですよね。

Y.U そうですね。梨生なんて物心つく前からジェリーと会っていたから、すごいサーファーなんていうイメージもなかったと思います。

R.U なかった。”アンクル・ジェリー”でしたね。かっこいいおじさんというイメージ。そのすごさを知っている今のほうが、会うと断然緊張しちゃいます。

T.M あらためて、出会った時のお話を伺えますか?

Y.U 当時、僕はまだ10代だったんですけど、すでにシェイプを初めていて、湘南の名物男だった辻堂のマーボー(故・小室正則氏。日本サーフ史を代表するレジェンドサーファー。1971年にはライトニングボルトを日本に導入)のファクトリーでシェイプしていたんです。そのマーボーがジェリーを日本に招いたんですよ。で、ひょんな流れでジェリーがマーボーの奥さんである真理子さん(当時最強とうたわれたトップレディスサーファー)のボードをシェイプすることになったんです。「植田、これからジェリーが工場へ行ってシェイプするからよぉ」って、いきなり。で、工場のみんながお昼ごはんに行っている時間にシェイプすることになったんです。僕もおなかペコペコだったんですけど、このチャンスはさすがに逃せないと思って、ファクトリーに居残ってジェリーに「シェイプを見ててもいい?」と聞いたら、彼は「もちろん」と優しく迎えてくれたんです。それがふたりでの初めての時間でした。ちなみにジェリーはシェイプの予定はなかったから、道具やテンプレートなどは持参していなかったんですけど、そこにある限られた材料やフリーハンドを交えながら、アウトラインを引いてシェイプしていました。つまり、自分の作りたいラインのイメージがつねに頭の中に出来上がっていて、それをいつでも導き出せるジェリーのすごさに触れました。

植田義則(Y.U)/ 1954年生まれ。17歳で初めて自身のサーフボードを削り、シェイパーとしての道を歩み始める。その2~3年後、日本を訪れていたジェリー・ロペスと出会い、滞在中に彼のシェイピングを間近で目にして深い感動を受ける。以降、大きな影響を受けながら自身の技術を磨いていった。ライトニングボルトの日本国内での生産に携わったのち、1981年に自身のブランド「YU Surfboards」を設立。その卓越したクラフトマンシップは、世界中のトップサーファーや職人たちから高く評価されている。

T.M なんだか、それって人生のターニングポイントのようですね。

Y.U そうですね。なぜならジェリー自身も当時のことをよく覚えてくれていて、それから関係が育まれていきましたから。その後、ジェリーはパーフェクトなGランドなど、トリップにも誘ってくれるようになりました。ピーター・マッケイブやジャック・マッコイなど、すごいメンバーと一緒にラインナップに並ぶのは緊張したけれど、本当に濃い時間を過ごさせてもらいました。ジェリーはいつどこにいてもジェリーで、無理がなく、そのうえでサーフィンへの時間と情熱の注ぎ方が半端じゃなかったですね。波がいいときは本当に、いつまでも海から上がってこない。シェイプはやっぱりサーフィンがすべてのベースだから、実際に彼のサーフィンを見て学ぶことは多かったですね。また、トリップ仲間の飲料水の心配やケアをしてくれたり、ケガをしたサーファーの傷口をその場で縫ってしまったり、そういう人としての在り方やスタイルも、やっぱりジェリーは別格でした。

T.M その後、植田さんはジェリーさんの影響を受けながらもご自身のシェープ技術を磨いていったと思うのですが、今度は植田父子について伺わせてください。梨生くんはなぜシェイプを志すようになったのですか?

R.U 自然と自分が乗る板を自分で削りたくなって、それを言った覚えはあります。15年くらい前、でしょうか。

Y.U そうですね。たしか正式に工場に入りたいと言ってきたのは、本人ではなくファクトリーで働いていた今は亡き梨生の友人である友成でしたね。彼が「なんか、リオが工場で働きたいらしいです」って。「なんで梨生はそれを俺に直接言わないんだ?」って、そんな風にして始まりました。

T.M 友成さんがつないでくれたご縁だったんですね。彼は僕の中学の先輩でもあったので存じています。

Y.U もちろん最初はシェイプだけではなくて、サンディングやバフだったりも学んでね。ただ、やっぱり親子ということもあって、ほかの職人に対してよりも、いろいろと口を出したくなっちゃうんですよね。

R.U たくさん喧嘩もしましたし、いちどは工場を出たこともありました。でも正直、工場に働くようになってからですね、サーフボード作りってこんなに手間が掛かって、こんなに工程が多いんだなと実感したのは。父の仕事を初めてきちんと理解しました。

植田梨生(R.U)/ 植田義則を父に持ち、幼少期からサーフィンとサーフボード製作に親しむ。プロ・ロングボーダーとしてのキャリアを経て、現在はシェイパーとして活躍。父親譲りの繊細で美しいシェイプ技術を受け継ぎながら、クラシックなテイストと現代的なデザインを融合させたボードを製作。次世代のクラフトマンとして、YU Surfboards の新たな魅力を発信している。

T.M やればやるほど、お父さんのすごさが分かるものですか?

R.U それはもう。プレーナーワークひとつとってもそうだし、積み上げてきた経験と引き出し、サーファーとのリレーションシップ……すべてですね。

T.M 経験ではぜったいに適わないところで、あえて聞きたいですが、そんな中でも梨生くんの強みとか、父に負けないと思うところはありますか?

R.U それは言いずらいですね(笑)。なにかありますかね?

Y.U 梨生の時代(つまり現在)は、マーケットにあらゆるサーフボード・デザインのニーズがあるんですよね。ロング、ミッドレングス、ショートボード。だから、最初からさまざまなデザインに触れていて、幅広くシェイピングを学べているのではと思います。一方で、僕がシェイプを始めた時代は、それこそロングボードから一気にショートボードに変わり、ハワイ、オーストラリア、カリフォルニアなどみんなが最先端を目指して試行錯誤していました。ジェリーも最初はアラモアナを中心にロングボードをやっていたけど、ノースショアに舞台を移し、パイプラインを制するためのデザインに注力して、最初のパイプライナーが完成したわけです。そんな時代ですから、あの当時のマーケットは最先端しか売れないんですよ。日本でも、初心者だからボリュームがあるボードとか、長いレングスから始めようとか、そういう意識が全然ないんですよね。サーファーがモテた時代で格好も大事だから「いやいや、この短くてかっこいいボードじゃないとサーフィンやる意味がない」なんて言って、サーフショップに並ぶのも6’1″~6’3″ばかり。まあそういう時代背景もあり、僕が若い頃は来る日も来る日もシングルフィンのラウンドピンテール……みたいに同じデザインのボードを削り続けました。多いときはハンドシェイプで一日6本。今思えばすごくいいトレーニングでしたけどね。気づけばより正確に、より早く削れるようになっていたり、だんだんとラインも洗練されて、過去に削ったものがだんだん古く見えてきたりね。

R.U 同じシェイプを1日6本も削っていたら、僕は続けられなかったかもしれない。というか、やっとですね。シェイプを始めて10年を超えたあたりから、やっとすこし、サーフボード作りのことが分かってきた気がします。そして、これから続けていくことで、もっと分かっていくと思うんですよね。

Y.U それは言えるね。サーフィンもそうだけど、たしかに年齢を重ねると体力が落ちたりというのはあるけれど、技術については進化して上手くなるんだよね。昔よりもいろいろ見えてくる。夢中になって一生懸命やって、より良いものを目指してチャレンジすることで、過去の自分を超えていけるんです。 サーフィンとサーフボードの関係性も、そうやって進化してきたわけですから。

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