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大事なのは「サーファーとしてどう生きてきたか」
ガイはコンペティションの最前線で勝負を続けてきた。一方のナオミは、早い段階で“勝つための型”から距離を取った。同じ海で育ってきたのに、選んだ道は違う。だからこそ互いの話が面白い。
「ナオミってさ、早かったよね」
「何が?」
「自分だけのスタイルを見つけたのが」

競技サーフィンは、動きに点数がつく。技の角度、スピード、完成度に評価の軸があり、勝つには “正解” を選び続ける必要がある。点数に結びつきやすい動作だ。ナオミはその正解を早い段階で疑い始めた。自分の気持ちが動くラインを優先し、映像や直感で伝わるサーフィンを磨いていった。
波の上で自分をどう表現するか。小さい頃からそんなことばかり考えてきた。だからこそガイは、20代で競技を離れ、“表現” としてのサーフィンを追究するナオミを心からリスペクトしている。常識やセオリーに囚われずに道を進むことが、どれだけ困難か知っているから。

一方のガイは、競技で勝つための型を磨きながら、ビッグウェーブの聖地であるハワイ・ノースショアにも通い続けてきた。そこでは、一瞬の迷いが事故につながる。恐怖と向き合い、怪我も重ね、それでも海に戻った。そうした積み重ねが、現地の大舞台への切符を手繰り寄せた。
「ガイはさ、待てるのが強い。あれは才能だと思う。ここっていうときに波を引き寄せるんだよね」
ナオミの言い分に誇張はない。普段から一緒に山へ行き、海に入り、失敗も成功も見てきた相手へのシンプルな評価だ。ガイが磨いてきたのは継続力と忍耐力、そして波を読む目。ナオミが磨いてきたのは波を余すところなく捉える身体感覚と、自分の基準をぶらさずにいる強さだ。
コンペティションかフリーサーフィンか、どちらが正しいという話ではない。ふたりが互いに惹かれているのは、表面的な技術や勝負強さではなく、その人がサーファーとしてどう生きてきたか、という部分だ。

山道に入ってカーブが増えてきたけど、さほど揺れは感じない。ティグアンはふたりを乗せて、しなるような軌道を描く。
「なんか、気づいたらここまで来てたね」
「でしょ。運転が楽だと、距離が短く感じる。ナオミもあとで運転してみて」
ガイはそう言って、速度を少しだけ落とした。
海と山はつながっている
クルマを降りると、空気が一段と冷たく感じた。遠くに、うっすらと稜線が見える。
展望台に着くと、視界が一気に晴れた。街の喧騒はここには届かない。それどころか、風の音すら聞こえなかった。

「もう少し行くと、山の中に滝があるんだ。神秘的な場所なんだよ」
ガイはトランクの縁に座り、山を眺めながら言う。ナオミはそれに相鎚を打つ。
「いいね。滝、前から行ってみたかった」
幼い頃から同じ海で育ってきただけあって、ふたりの距離感は友達らしい自然さで、気を張った感じがまったくない。沈黙も、心地いい間として捉えられる。
ふたりはしばらく、何も話さず景色を見ていた。

展望台を離れて、山の中へ入る。足元の地面は少し湿っていて、土と木の混ざった匂いがした。
「この辺、好きなんだよ」
ガイはそれだけ言って迷いなく歩き出す。何度も来ている場所だと、足取りでわかった。ここから滝までは15分ほど歩くらしい。道は下り坂で、所々、岩で隆起している。靴底が小石や枝を踏む音が続き、会話は自然と減った。

「そろそろ着くかも」
ガイが前を歩きながら言う。その背中を見ながら、ナオミは少し遅れてついていく。
太ももにじわっと負荷を感じる。でも、心は弾むように軽い。
滝に打たれて
突然、視界が広がった先に滝が現れた。鳥の声に混じって、ざーっという音が響く。岩肌を叩いた水が白い煙となって広がり、そこに光が当たると、うっすらと虹がかかった。
「わお。出てるね」
ガイはスマホを構えるでもなく、しばらく黙って見ていた。波待ちのときと同じ顔だ。そのまま服を脱いで滝に入る。

肩に水が当たった瞬間、息が止まりそうになる。冷気が肌を突き破りそうだ。頭が割れる。ぼんやりと視界に入るのは、水しぶき、光の反射、虹の輪郭…。外界の情報が遮られて、余計な考えが消える。
滝から出ると、ナオミは肩で息をしながら言った。
「ワイプアウトしたときと似てるかも。強制的に内側に戻される感じ」
ガイがタオルを手渡して笑う。
「そういうときは、ゆだねるしかないからね」
そして続けた。
「気持ちいいことの逆をやるのって大事だと思う。二度寝したいなら起きてみる、とか。選択肢を狭めていくと、自分にとって本当に必要なものが見えてくる」
ふたりの温度感はとても似ている。どちらかが迷っていると、もう一方が手を差し出す。
無理に引っ張ったり、引き上げようとはしないけど、その手には温もりがある。 岩の上で少し座って、呼吸を整える。気づくと虹は消えていた。

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