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(ライアン・バーチとドナルド・ブリンクから影響を受けたというレイ・マーティーノ。クイーバーの半分以上が非対称デザインだ。それにしてもクラシック・ログのデュオでの非対称実験は未知の領域である)
Trey Martinho
終わりなき非対称デザインの旅
ボードのアウトラインもフィンも、非対称デザインへのこだわりが尋常ではない。瑞々しい感性とアカデミックな思考を併せ持つトレイ・マーティーノ。既存のデザインや固定概念を疑う柔軟性と異質であることを厭わない強い信念が魅力だ。膨大な実験と改良の先に彼は何を見出すのか。近い将来、その答えがわかるかもしれない。


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以前、本誌のフォトグラビア制作に際し、フォトグラファーのノーラン・サリヴァンが寄せてくれた作品の中に奇天烈なフィンセットアップのロングボードの写真が含まれていた。パラレルに並べたフィンボックス2つに、アウトラインの異なるフィン2本をずらして並べた、デュオ・アシンメトリー・ログ。そのログはサンタクルーズのサーファー・シェイパー、トレイ・マーティーノのものだった。
左右非対称ボードのあらゆる可能性を探っていることが、トレイのボードからは伝わってくる。2ストリンガーの非対称アウトラインに、異なるデザインのウッドフィンがオフセットでつけられたログを指し、彼は話し始めた。
「見た目はクレイジーだけど、ノーズライド、カットバックなど、基本シングルフィンログに乗るのと感覚は同じ。2本のフィンはデュオのコンセプトなんだ。長いレールのつま先側のDフィンで波をグラブしてトリムし、短いレールのかかと側のフィンでターンする。フィンの間に水が流れドライブしてスピードが出るから、シングルフィンよりも少し速い。ログだけどマニューバー性もいい。ノーズライディングのときにはよりホールド感があり、セクションのかなり後ろにポジションをとれることにも気づいた。ほんの少しだけど、そんなフィーリングの違いを楽しんでいるんだ」




クイーバーは最短で4’9″から最長で9’7 1/2″まで。半分以上はアウトラインが歪んでいる。短めのボードの非対称は想像がつくが、ロングボードとなるとオリジネーターのカール・エスクトロムの非対称ログを思い出すくらいで、他に実験している例はあまり見ない。しかもトレイの場合、デュアルフィンをオフセットにしている点でユニーク極まりない。この手のロングボードを何本も作り、フィンの形と位置とその組み合わせを数えきれないほど試してきたというから、かなりのマニアだ。

ロングビーチ出身のトレイは、ずっとハイパフォーマンス・ショートボードに乗って育った。高校のサーフクラブのコーチの勧めでロングボードにも乗るようになると、そのアプローチの違いに面白味を感じるようになった。とくにシングルフィンログのクラシックなサーフ観を気に入り、「サーファーとしての成長にとても重要な経験だった」という。そこからボードのサイズやタイプに偏見なく、それぞれのフィーリングの違いを楽しめるようになった。
サンタクルーズに移り住んだきっかけは大学進学だった。
「最初は生態学と進化学を学び始めたんだけど、途中で認知科学に興味を持ち、専攻を変えた。脳科学みたいなもの。神経生物学や心理学も含んでいる。主観性や人の感じ方とか。かなり哲学っぽくもある。脳はとても複雑だからね」
主観性と感じ方? ボードのわずかな違いを感じとることと関係しているのだろうか。ボードを媒介に、サーフィンを通して自分の脳と心がどのように働くのか、認知科学の実験をしているのではないか、アカデミックな彼を見ているとそんなふうに思えてくる。
シェイピングを始めたのも大学時代。はじめは新しいボードが欲しくて自分のために削り始めたが、徐々に友人、友人の友人へと欲しがる人の輪は広がっていき、大学を卒業するころにはインスタグラム経由で知らない人からもオーダーが入るようになった。いまではすっかりコミュニティのシェイパーのひとりである。



「一流のシェイパーでさえ固定概念にとらわれている気がする。そういうものを取っ払ってエクスペリメントしたかったというのがシェイピングを始めた理由。デザインするうえで、泳ぐ魚や翔ぶ鳥から多くのヒントを得ることができるから、自然に目を向けることは素晴らしい。でもサーファーは、ひとつとして同じものはない波の上を滑走しながら、ボードの一部を水中に沈めたり水面から出したり、それを状況に応じて細かく行なっていて、自然界には例がないとても特殊なことをしているんだ。ボードはつねに水と空気という二種類の環境の間を行き来する。そんな生き物は自然界にはいない。だから水とボード、フィン、テールの相互作用を想像し、作って乗って限界を感じては改良するんだ。何か新しい方法を生み出そうとするのは人間の性(さが)じゃないかな。僕が非対称デザインを改良しようとするのは必然なのかもしれない。そもそもサーファーはボードの上に横向きで立っているのだから、つま先側とかかと側のデザインを変えるのは理にかなっているはずだよ」
この実験と改良により得た知見は、彼の財産であり糧である。



トレイは盟友でフォトグラファーのノーラン・サリヴァンとのジーンのプロジェクトのためにかなり前衛的なクラフトも作った。そのひとつが丸い円盤のようなボード(上の写真)。中心にフィンをつけたらどうなるのかを試すという。最近はサーフボードのブランクスから切り取ったフォームでスカルプチャーも作り始めた。それらは独創的なアート作品。以前から木版画やペインティングにも取り組んでいたが、いまはフォームを造形するのが楽しいという。版木を彫ったりスカルプチャーを作るのが好きな理由は、シェイピングに似ているから。どれもその形にするために木やフォームを削り取っていく。トレイにとってはシェイピングもフォームの作品作りであり、芸術表現の一環だ。
「将来的に自分のシェイピングベイを持ちたいな。大量生産や大きなブランドになることに興味はない。僕のボードで誰かがストークして、それに価値を見出してくれたら嬉しい。ただそれだけ」
経験を重ねていくと、フレッシュな視点とピュアな想いを保ち続けることは難しくなる。ただ彼なら純粋さを失わずにいてくれるはず。トレイには不思議とそう思わせる何かがあった。

── Blue.102号「Uncommon Style」より
photo&text◎Takashi Tomita
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