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人手不足にあえぐウエットスーツ業界に、水性ボンドの開発で一石を投じた「トータス」。代表の岡田さんが目指したのは、人と環境にやさしい“ニオイのないウエットスーツ生地”の製作。そのきっかけは、幼いころの苦い思い出だった。
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「いやなニオイがしないでしょう」。そう言って工場を案内してくれた岡田至功さん。神奈川県藤沢市のウエットスーツ生地専門メーカー「トータス」が、海にほど近いこの場所に社屋を構えたのは1997年。もともとウエットスーツ素材の専門商社として東京都大田区で1989年に創業したのが始まりだが、代表の岡田さんが父親の跡を継いだことをきっかけに拠点を移した。
「昔は父のしていた事業が嫌だったんです。鼻につくニオイがどうしても忘れられなくて……」
岡田さんが大田区の倉庫を初めて訪れたのは小学生のとき。そこで目にしたのは、山のように積み重なったウエット生地。広大な敷地に漂う合成ゴムの臭気にあてられて「こんな会社、継ぐもんか」と幼心に固く決心したという。
塗料やガソリンに似た、ウエットスーツの独特なニオイ。その原因は有機溶剤だ。ラバーのもとになるクロロプレンの溶媒や、ラバーとジャージを貼り合わせるボンドに使われ、安価で加工しやすいという利点がある。一方で、製造過程でVOCガスを出し、吸い続けると人体に健康被害をもたらすことがある。
「どこの工場も人手不足ですが、空気の悪い環境に人が来ないのは当然です」
トータスの代表として、今では業界の未来を考える立場になった。事業縮小や廃業に追い込まれたファクトリーの話を耳にしていたこともあり、何かできることはないかと、まずは自社の職場改善に乗り出した。そんな時に目に留 まったのが、とある化学原料メーカーに関するニュースだ。



「合成ゴムにジャージを貼るための水性ボンドを開発した、という内容でした。それを見てすぐ問い合わせたんです」
しかしトータスのウエットスーツ生産量は、他業界からすれば雀の涙。水性ボンドについてそれ以上の協力は望めず、技術革新も期待できなかった。それまでラバーとジャージを貼り合わせるラミネート加工を外注に頼っていたが、2019年に自社開発に踏み切る。
「それだけ水性ボンドの可能性に賭けていたんです。でも、それをゼロから生み出すのは素人がラーメン屋を始めるようなもの。スープを煮込む寸胴鍋をどこで買えばいいのかさえ分からない、最初はその程度の知識レベルでした」
加工のための塗工機や圧着機を探すかたわら、あちこちで聞きかじった情報を頼りに水性ボンドの開発に勤しんだ。
「問題はクロロプレンが水に溶けないこと。水と油のように、本来は互いに溶け合わないものが混ざった状態のものをエマルションと言います。乳化したエマルション組織を壊さないように添加剤を配合することができれば独自の水性ボンドが成功するはずでした」


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