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“バックカントリーの聖地・黒岳へ
未知なる旅の扉が開く”
海に別れを告げて、僕らは興部へと車を走らせた。ところで今回の北海道でのライブ会場は、ある人に言わせると僻地ばかりだそうだ。興部、美瑛、そして当麻。僕が九州の片田舎に暮らしていることに起因してか、言われてみれば近年は、都会よりむしろこのような田舎町でのライブが多いかもしれない。サーファーやスノーボーダーらが暮らしているエリアでのライブが僕のツアーの特性であり、そんな彼らは都会から離れた所にコミュニティを作っているケースが多い。それゆえ呼ばれたその場所に行ってみると、結果的にほどよく田舎だったりするという具合だ。
その中でも特に興部はおもしろい。デガラシくんという奇異なニックネームを持つデザイナーが台風の目となり、静かな街に時折ハッピーな嵐を起こしている。ウィットに富んだ彼の独特の世界観は、作品や空間作りとなって田舎から発信されているからこそ、特別な付加価値を伴って僕らの視覚を刺激してくる。今回のツアー最初のライブパーティーは、彼の実家である写真館のフォトスタジオで開催され、最終的には割と派手な盛り上がりを見せてくれた。デガラシくんはいつも率先して、僕のライブを盛り上げてくれる。

ライブがスタートして間もなく、彼によってテキーラのショットグラスが振る舞われ、徐々にヒートアップしたお客さんはいつの間にか皆立ち上がり、ラストチューンの「Still Crazy」という曲では、シスターアクトのワンシーンさながらの、大合唱に近い仕上がりとなった。稚内のサーファーたちなどは、子どもたちを連れて泊まりがけで遊びに来てくれていたので、終始和気あいあいとした空気が漂っていたし、ライブ後は紋別のサーファーたちと、午前中の根室の波について話をしたりした。静かな興部の漆黒の夜に、太く暖かな炎が立ち上っては消えていく、そんな夜だった。
翌日、美瑛に行く前に、僕らは上川町のほぼ中央に位置するバックカントリーの聖地のひとつ、黒岳へと向かった。いよいよここから待ち焦がれていた、スプリットボードでの旅が始まる。ハイクアップに先立って、ゴンドラ乗り場でふたりの友人と落ち合うことになっていた。レザークラフトクリエーターのハブちゃんと、自由人のフルーチェ。彼らもまた、僕らが訪れるのを心待ちにしてくれていた、かけがえのないメンバーだ。スキーヤーのハブちゃんは、僕らのために登山ルートのプランニングを練ってくれていたよ。そしてありがたいことに、その日も根室に続いて快晴の一日が約束されていた。
話は逸れてしまうが、僕はこのところずっとハブちゃんが作る財布を愛用している。滑らかな蝦夷鹿の皮を使った、金具を一切使わないデザインの二つ折りのものだ。初めて彼に会ったのは、五年以上前の冬。ライブの後に、僕らはお互いに物々交換をした。僕は自分の持つアルバムのすべてのタイトルを彼に手渡し、その返礼として彼は自らの手で作った財布を快く差し出してくれた。僕らのディールはお金が仲介しない形で成立したのだ。マネーはいいエネルギーだが、時に万能ではない。
まずはゴンドラと一本のリフトを乗り継いで、コンパクトな黒岳スキー場の最上部まで行く。スキー場の終わりがバックカントリーの始まり、つまりそこは僕にとって、未知なる旅へのエントランスとなる。僕とマニとAbechanは、それぞれカーディフのスプリットボードをセパレートさせ、シールとビンディングをセットした。バックパックに行動食や水、シャベルやプローブなどを目視し、ビーコンをオンにしたら、いよいよ歩き始められる。しかしそれに加えて、ふたりは僕のために“クランポン”というギアを用意してくれていた。ずっしりと重たいクランポンは、バックパックに入れるとなかなかの存在感を示す。この時は分からなかったけれど、あとあとこのクランポンに僕は助けられることになる。


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