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SITUATION サーフボード作りの現場 #02

SITUATION サーフボード作りの現場 #02

SITUATION
#02
グラスプロセスと職人、クオリティとは

 前回の第一回で、まずは日本のサーフボード作りのグラスワーク現場の厳しい状況と、近未来に迫っているかもしれない困難についてお話しした。日本のサーフボード作りはもうすでに長い歴史を刻んでいることで、世界水準で見てもトップクラスのクオリティに届いたものもあるし、大規模ではないとしても組織的なファクトリーだけでなく、個人規模の言わばワンオペ・スタイルの現場も全国には存在するというのも大事なポイント。

 連載2回目の今回は、グラスプロセスと、それぞれのプロセスに携わる職人の仕事について、もう少し詳しく説明してみよう。ここでは、長い歴史を持つマテリアルであり、もっとも多くのサーフボードに用いられるウレタンフォーム×ポリエステルレジンで製作されるサーフボードを中心に話を進める。

* * *

 シェイパーによってシェイプされたフォームは、グラスカードが添えられて、グラッシングの最初の工程を待つラックに収められて作業開始を待つことになる。
 グラスカードには、そのボードにどんな色やグラフィックスが施されて、フィンやフィンボックス/プラグの指定、リーシュプラグやループの位置、ロゴマークの種類や色や位置、場合によっては使用するグラスの番手や織りのタイプ、フィニッシュの選択、などなどのグラスプロセスの全般的な指示やリクエストが詳しく記入されている。

 さて、グラスプロセスを順を追って大まかに説明しよう。

 グラッシングの最初の工程はグラス・ラミネート(ボードのカラーリング方法としてエアブラシを選択した場合には最初にカラーリングが施される)。グラス・ラミネートは一般的にボトム、デッキの順番。このプロセスでラミネート・レジンに顔料を加えれば、使用する顔料の種類によってティント(透明顔料)とかピグメント(不透明顔料)などと呼ばれるカラー・ラミネーションになる。

 ボトムとデッキそれぞれのラミネートの後にはホットコートと言われるクリア・コーティングが両面それぞれに分けて施される。この工程の流れの途中では、フィンボックスやプラグなどがインストールされたり、フィンがグラスオンされたりする。

 そのホットコート・レジンが十分に硬化したら次がサンディング。サンディング後のチェックではラミネート時に生じたエアの除去や、ブロースルーした微小な穴の修正などタッチアップも行われる。

 次にグロスレジン・コーティングが両面それぞれに分けて施される。グロスレジンが硬化すると仕上げ工程に進むが、まずはサーフェイスを整える空研ぎ(何段階かのサンディング)~水研ぎ(何段階かの耐水ペーパーによるファイン・サンディング)処理が施される。

 さらに最終的な仕上げとして、バフィングによってポリッシュされてフィニッシュである。このフィニッシュ段階でマットなサーフェイスに仕上げれば、ウェットサンド・グロス・フィニッシュとなる。ちなみに近年はホットコート・レジンのサンディングをフィニッシュとし、それ以降のプロセスを省いたホットコート・サンド・フィニッシュをグラッシング・スケジュールの基本として、グロスコートをオプション扱いにするファクトリーもある。

 さあ、ここまでの説明は最初に触れたように大まかなもので、実際にはそれぞれの工程ごとにたくさんの、それもケースによって大変テクニカルなプロセスや補助的な処置、ノウハウを必要とする技が隠れている。

 例えばグラス・ラミネートひとつとっても、色々な工程で用いるマスキングテープの選択からテーピング技術、グラスファイバー・クロスの選択や切り方、フォームのセル(シェイプされたフォーム・サーフェイス表面の微小な凹)にラミネートレジンを完全に入れ込む技、ラミネートグラスにレジンを含浸させながらグラスにもっとも適正な張りを与えて硬化タイミングに調和させる技とノウハウ、ラミネートされたグラスとフォームにテープでマスキングされた境目ラインをカットするタイミングや手法、などなど、これでも足りないほどの技術やノウハウを駆使した作業で進められる。

 また、特にレジンを用いる工程においては、気候条件に対応したさまざまな工夫やノウハウが要求される。日本は四季によって気候条件の変化の幅が大きく、同じ作業でもそれぞれの季節や気温・湿度に適応しなくてはならず、それらをマスターするには何年もの四季サイクルをこなさなければならない。

 グラスラミネートだけでこれだけの、いやそれでもまだ表し足りないディテールが隠れている。先述したように、この後に続くプロセスがまだまだあることを考えれば、先が長いだけでなく、それぞれのプロセスも同様にベーシックな技術から秘技に至るステージまでがある。そのステージこそが、ハイクオリティと認められるべき実体である。

 ここで知って欲しいのは、本物のトップクオリティと評価されてきた(評価されている)サーフーボードやビルダーたちこそが、現在みなさんを惹きつけるサーフボードの諸要素のヒントを提供し、シーンを牽引し続けていること。その源流がなければその先の流れはないし、仮りにそれが絶えてしまったら近未来のサーフボードやサーフィンは誰も想像がつかない。

 もちろん世の中のすべての場面で名だけを借りたクオリティは多くある。何もサーフボードにそこまでは求めないという考えはまったく否定しない。けれどもサーフィンとサーフボードの関係の中で、最も象徴的で世にも稀有な要素、サーファーがサーフボードをデザインし、創り上げた素晴らしいそれらは、機能性はもちろんサーファーに大小の意識改革や体験をもたらすことすらある。

 その体験があるサーファーはそれを知っているし、それこそが初回の冒頭で断ったようにここで扱うサーフボードたちであり、その製作環境に起きている状況をお伝えする理由。

 現場の状況に目を移せば、前回お知らせしたように職人が減少している、それも真のクオリティを体得した人々が。それほどキャリアを積んでいない比較的若い職人の可能性に期待が高まる一方で、そういう職人すら決して多くないことと、技とノウハウを持った職人が減っていってしまえば、次に続く職人が学べることが極端に先細りしてしまうことにならないだろうか。このことをみなさんにお伝えしこの連載を書きながら、できることなら何か提案を見つけたい。

第3回へつづく

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text◎Chan Mitsui
illust◎Hirockshow

本記事はBlue.98号から抜粋したものです。

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