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透き通った波間で日々を調え、それぞれの持ち場へと向かう。そんなサーフィンを軸としたくらしが当たり前にあるのが、ここ勝浦のまち。人口減と人材不足という、わが国共通の課題に向き合う病院と行政、そして波に惹かれ集う者がともに交わりながら、人々は新しい勝浦の姿を模索する。
包容する海と、挑戦する医療。それらが出会う先に、地域の未来が重なって見える。


勝浦はいま、地域医療を未来へとつなげるべく、歴史ある塩田病院と、最新鋭の特別養護老人ホーム・オーシャンビュー勝浦を軸に、行政と住民も協力しながら、持続可能な医療福祉体制づくりに挑戦している。鍵を握るのは、海を愛するサーファーたちの存在と、彼らが体現する自由でしなやかな生き方だ。

⎯⎯ 二地域居住されている副市長の視点で、勝浦の魅力はどんなところにありますか?
加藤副市長(以下、加藤) 最近メディアでもよく耳にすると思いますが、やっぱり涼しいんです。朝、電車を降りると空気の違いにハッとさせられます。これも暮らしやすさのひとつなんですね。小さなコミュニティなので人付き合いも自然と濃くなりますし、海に入ればまた海のつながりができる。それが心地よければ、移住や二地域居住にも自然とハマっていくのではと思いますね。
⎯⎯ 勝浦の海はどんな雰囲気ですか?
神山さん(以下、神山) 冬は御宿から南にかけて海水温が高いです。夏は台風でメインのブレイクがクローズしても、普段波がない場所が意外と割れたりも。しかも平日はほぼ誰も見に来ないから、本当に人が少ないんです。肩~頭サイズが好きなら選択肢も多い。勝浦でのサーフィンはライフスタイルに近い雰囲気ですね。
⎯⎯ 塩田病院は、この地域でどんな役割を果たしていますか?
青木先生(以下、青木) 勝浦は過疎地域に指定され、他地域と同様、今後も人口は減る見込みです。けれど、ここで暮らしていく人は確実にいて、漁業を守らなければ日本人は魚を食べられなくなる。だからこそ医療をライフラインとして残す前例を塩田病院が示したいと考えています。幸い、関係人口や二拠点生活者も多い環境です。きちんと取り組めば人材も、利用者も集まるはず。東京に隣接する立地も強みで、急性期と在宅医療をつなぐハブ病院としてのロールモデルを早くつくりあげたいと考えています。

塩田病院
総合診療科 医師
青木信也さん
滋賀県出身。学生時代より地域医療を志し、北海道や離島、オーストラリア内陸部で総合診療の研鑽を積む。現在は塩田病院での日々の診療にくわえ、地域医療のロールモデルを構築すべく奮闘中。ホームブレイクは御宿
⎯⎯ この地域におけるオーシャンビュー勝浦の重要性は、どんな点にあると思いますか?
藤平施設長(以下、藤平) 前施設からの歴史があり、地域とのつながりがとても強いんです。それを受け継いでいかなければと思っています。デイサービスも併設しているので、利用者さまのご家族との信頼関係を築くのも大事な役割。塩田病院とグループでつながり、当施設の理事長が塩田病院の院長でもあるので、医療との連携が強く、利用者の安心安全を支えています。現在、個室の定員は20名ですが、もっと増やして地域に貢献したい。そのために新たな人材が欠かせません。
⎯⎯ 現場から見た、塩田病院の存在意義はどこにありますか?
神山 この地域の2次救急の約92%を塩田病院が担っています。緊急時に欠かせない存在ですが、看護師が足りていません。ひと晩で救急車が10台以上来ることもあるのに、いまはひとりで対応せざるを得ない状況です。もし受け入れを止めざるを得なくなってしまえば、この辺りの医療は崩壊しかねない。塩田病院が衰退することは、この地域にとって絶対にあってはなりません。
⎯⎯ 人材不足は、本当に喫緊しているのですね……
山田看護師長(以下、山田) 近隣の准看護師学校が昨春閉校し、毎年一定数いた人材の流れが途絶えてしまいました。人材確保のため、いまわれわれが積極的に動くフェーズにあり、そのアプローチのひとつが地域の特性を活かした、サーファーの方々にも働きやすい環境づくりです。たとえば移住してきて「何の仕事をしよう?」と考えている段階なら、資格がなくても介護助手や看護補助から始められます。そしてその後、「もっと介護や医療に携わりたい」と思ってもらえたなら、勤務しながら准看護師学校への通学も可能です。奨学金制度も整え、学費はほぼ当院で負担します。つまり、資格や経験の有無にかかわらず医療の現場で働きたい気持ちがあれば、幅広く受け入れています。
神山 近年は、学生から正看護師を目指す人が多いのが現状です。でも准看護師や看護補助にも大切な役割があります。そして、それらの良いところは家事と両立しながら働けること。子育てを終えたサーファーのお母さんたちにとって、経験を活かしふたたび社会に出るセカンドキャリアとして、とても良い選択肢だと思います。
藤平 オーシャンビュー勝浦においても、介護福祉士の資格がなくとも積極採用しています。入所後は3年勤続すれば国家試験を受ける権利も得られ、受験費用も全額補助するなどサポート体制を整えています。現時点で170名余りの待機者さまがいます。人員を確保し、ひとりでも多く受け入れられるよう努力を続けたいと思っています。

塩田病院
看護師
神山ちえみさん
宮崎県出身。25歳のときサーフィンがきっかけで外房へ移住。東日本大震災を機に医療の世界へ。子育て、准看護学校での勉学、塩田病院での勤務と三足の草鞋を履いていた時期もあるパワフル・ママは、今年で勤続12年
⎯⎯ サーファーにとって勝浦の魅力は、どんなところにありますか?
青木 ここに来れば、すぐ近くにサーフィンライフが生まれます。仕事前に1ラウンドを終え、すっきりしたあと勤務に入れますし、夏場なら終業後にもう一度海へと向かえる。オン/オフをすぐに切り替えられるのは大きな魅力です。サーフィンや釣りが好きな人にとって、通勤時間を気にせず海が生活の一部になる⎯⎯ そんな環境は貴重だと思います。
山田 サーフィンをする方は本当にパワフルでフットワークも軽い。当院で働く魅力が海とも結びついていて、暮らしとの相性もいい。お互いにとってウィンウィンだと感じます。勤務形態も日勤/夜勤のシフトにくわえて夜勤専従もあり、選択肢が多いのが強みです。退勤後はすぐに海へ向かえるよう、お湯や水の用意、そしてボード保管場所など、要望に柔軟に応えられるようにしていきたいと思っています。
藤平 オーシャンビュー勝浦の眼下に広がる部原はかつて国際大会(WCT)も開かれていたほどで、その波の素晴らしさを知る人も多い。塩田病院同様、勤務形態も早番/遅番のシフトにくわえて夜勤専従も導入予定で、サーファーの方にも満足いただける柔軟な体制を整えていきたい。希望があれば、週休3日制や連続休暇など、ライフスタイルに合わせた雇用条件も検討します。

オーシャンビュー勝浦
施設長
藤平俊之さん
生まれも育ちも生粋の勝浦人である藤平さん。1993年に社会福祉法人へ入職して以来、長きにわたって介護の現場で経験を積んできたベテラン。2025年5月に開所したオーシャンビュー勝浦の立ち上げにも尽力した
⎯⎯ 行政と医療現場では、普段からどういった課題やテーマを共有していらっしゃいますか?
加藤 昨年、青木先生と地域医療に関するセミナーを立ち上げ、住民のみなさまに介護や医療の現状を理解し、共に考えてもらう場を設けました。実際に開いてみると、多くの方々が積極的に参加してくださるのを感じています。行政としては、こうした取り組みにくわえて、住環境や子育て環境の整備など、より広い視点から地域を支えていきたいと考えています。
⎯⎯ セミナーのテーマはどのようなものでしょうか?
加藤 たとえば災害で塩田病院に傷病者が集中した場合、今の体制では対応しきれません。また避難所でできることも限られます。だからこそ「家庭で何を備えるべきか」が重要です。「受診を控えてください」ではなく、事前の備えや予防の意識を高めてもらう。住民のみなさんにとって塩田病院が“当たり前”の存在だからこそ、現状を共有する場を設けました。青木先生とも「美しい海をアピールしても看護師はどれだけ定着するのか」と話しており、心配は尽きません。まちの住環境は十分とは言えず、その部分に行政がどう関わるかが課題です。大事なのは、住民のみなさんたち自身も塩田病院が必要だと感じ、その意識が住民の中で育まれていくこと。その仕組みづくりが目下の課題です。

勝浦市
副市長
加藤正倫さん
内閣府地方創生人材派遣制度で勝浦市役所に赴任。政策統括監として勤務したのち、2024年より現職。この4年間で単身赴任、家族での移住、二地域居住とあらゆる居住スタイルを経験。それが政策にも活かされている
⎯⎯ 日本全体で人口が減り、医療スタッフも不足していく中で、地域に目を向けて働く医師は多いのでしょうか?
青木 正直、地域で働く医師はまだ多くありません。ただ社会情勢を見れば、今後の医療は地域で活躍できなければ成り立たない。この10年でそんな変化が起きている中、勝浦はそうした学びに適した環境だと思います。
昔、研修で長期滞在したオーストラリアでは、人口数千人の小さな町でもしっかりした医療体制が整い、平均寿命は日本と同じ。救急にくわえて産婦人科や外科もこなす“何役も担える医師”が地域を支えていました。重症者は都市部へ搬送。軽症者は地域で完結し、さらに予防啓蒙も行うという役割分担です。
また10日勤務・4日休みで地域と都市を行ったりきたりする暮らし方、働き方で、これなら勝浦でも導入でき、かつそのスタイルを魅力と感じる人材も集まるはず。医師も、介護士も看護師も、十分な休みを確保できる体制づくりが、地域医療を守る大きな力になるはずです。
山田 塩田病院では勤務表を作成する際、一人ひとりに合った働き方を尊重することを大切にしています。交互に休みを取れるよう調整するなどして、長期休暇を望むスタッフにも対応できる体制を心がけています。やはり理解と柔軟さが欠かせないと感じています。
⎯⎯ 塩田病院が求める人物像は?
山田 海のある環境を楽しみながら、キャリアアップを目指す方を歓迎します。成長できる場を一緒に築きながら、ひとりでも多くの方に力を貸していただきたい。当院は転換期にあり、地域医療のための多様な挑戦が欠かせません。求めているのは「なんでもやってみたい」と前向きに取り組める人。年齢は問いません。仕事も私生活も充実させたい方にこそ合う職場だと思います。

塩田病院
看護師長
山田大樹さん
勝浦から1時間圏内の千葉県長生村出身。高校卒業後、医療従事者を志し看護補助職で塩田病院に入職。以後、准看護師、正看護師の資格を取得し勤続20年のベテラン。現在は看護師長として積極的に人材獲得/育成に携わる
⎯⎯ 「勝浦がこんなまちになったらいいな」というビジョンはありますか?
青木 病棟を回診するたび、最上階から日々さまざまに表情を変える勝浦の海が見えます。それを眺めながら働けることは僕自身も気に入っている点で、実習に来た学生たちもとても喜びます。海が当たり前にある環境で、地域に合った医療を提供し、その実践が全国の地域病院のロールモデルになればと思っています。出勤時に「今朝の波どうだった?」と声をかけ合い、職種を超えて海の話で盛り上がれる⎯⎯ そんな関係性が築ける職場は素敵ですよね。
加藤 やはり住民の医療リテラシーを高めることにはフォーカスしていきたい。当たり前だと思っている医療が実際どういう状況にあるのかを意識してもらった上で、地域の病院は形づくられるべきだと思います。行政としてできるのは、新しく来られる方々の支援と、住民のリテラシー醸成。このふたつに尽きると思います。
青木 サーファーにとってコミュニティは大切です。御宿や部原で波待ちしていると「怪我をしてしまった」「体調があまりよくない」と相談され、アドバイスすることもよくあります。そうしたやり取りから「いまの病院ってどうなの?」と実情に関心を持ってくださる方もいます。海の中が自然とコミュニティの場になり、そのつながりも自分の意欲を支える力になってくれます。
⎯⎯ 地域に暮らすサーファーのみなさんに「実は自分のまちの医療は、いまこういう状況なんだ」と知ってもらうだけでも、少しずつ意識や行動は変わっていくのだろうなと感じました。
今回は貴重な示唆をありがとうございました。

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