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『継承者たち』 ─ Nick Melanson & Max Caldwell

『継承者たち』 ─ Nick Melanson & Max Caldwell

カリフォルニアの中でも特に歴史を重んじるオレンジカウンティ南部。そのディープでリアルな環境下ではテクニックや機能よりも、ボードとサーファーの時代背景が重要視され、本物とそれ以外を隔てている。厳しい目線だけに若くして頭角を現すことは難しい。37歳の若さでこの世を去ったクリス・ボーライクと、フリーサーフィン界のアイコンであるアレックス・ノストはカリフォルニアのロングボードカルチャーの継承者として、ニック・メランソンとマックス・コールドウェルを指名した。

ニック・メランソン(右)とマックス・コールドウェル(左)。共に素晴らしいサーファーであり、ニックはシェイパー、マックスはグラッサーとしても才能を発揮する


* * *

「for Chris」

赤い液体がガラスクロスの表面を這う。時間との戦いであるこの作業は芸術的要素の前に、迷いない技術力を要する。一見、無計画であるように黒、黄色、オレンジが次々と注ぎ込まれる。液体の硬化が始まる直前までに、その流れを完璧に制御し、融合させることによってアブストラクトは生み出される。10数人が見守る中、独り舞台を終えたマックスは口元のマスクを外し「for Chris(クリスのために)」と言って作業を終えた。

「紹介したい奴がいるんだ」

 2022年5月、久々にカリフォルニアを訪れた私はカポビーチにあるクリスの家に向かった。そこは、かれこれ20年前にかのロビン・キーガルが「Creme」を立ち上げた場所に近く、あの時クリスはファクトリーの壁にペンキを塗っていた。そこからさらに遡ること5年前、ロビンは15歳、クリス、ピックル(タイラー・ウォーレン)、アレックス・ノストは13歳だった。彼らが有名になるずっと前のことで、私は免許もお金も持たない彼らを誘って「チャートハウス」に繰り出した。

 当時からご馳走と言えばダナポイントの丘の上にあるチャートハウスだった。チャートハウスはサーファーのオーナーがビーチでたむろする若者たちに仕事をさせようとマリブやワイキキなどの有名なサーフポイントの近くにレストランをオープンし、サーファーたちを雇用したというカリフォルニア・サーフカルチャーらしいヒストリーを持っている。

 話は2022年に戻り、そのチャートハウスでクリスと昔話をした後、クリスは「紹介したい奴がいるんだ。名前はニック。まだ23歳だけどすでにこの辺りじゃ飛びぬけた存在だ。ショートもロングも上手い。しかもシングルフィン・ロングボードのことがわかっている。わかるだろ、ただ上手いだけじゃダメなんだ。このカルチャーを深く理解し、愛していなければならない。ニックはすでに相当な数のボードをシェープをしている。某メーカーで8年間、あらゆるボードをシェープしてきたんだ」と、話し始めた。

「彼にはロストの工場で働くマックスというグラッサーの相棒がいて、彼がニックのシェープしたボードをすべてラミネートする。周りの者たちはまるで20年前のロビンと俺の再現だと言うんだ。いまの俺はダメな人間だけど、俺は彼らにボード作りにおいて重要なポイントとアブストラクトについて教えているんだ」と、続けた。

 その話に興味はあったが、ドラッグに侵されていることを隠さないクリスの話を、私は半ば聞き流していた。

期待していたうねりが届いた日、リラックスしたスタイルでノーズを決めるニック・メランソン


 翌2023年、再びカリフォルニアに渡った私はアレックスとコスタメサを徘徊していた。そのグループの中にいつも見かける若者がいた。プールバーで、ライブ会場で、友人の誕生パーティで。そしてアレックスが言った。

「え、まだ紹介してなかったっけ。こいつはニック。もうすでに有名なサーファーだよ。ニックはマックスとコンビでサーフボードを作ってるんだ。まるで昔のロビンとクリスだよ」

 以前ロビンが「有名なサーファーになりたかったら、有名なサーファーが集まる場所に顔を出すことさ。そこにいることが重要で、そこにいれば世界中に貴重なネットワークが築けるが、そこにいなければただの一人のサーファーになってしまう」と言っていた。今ならその意味がよくわかる。ニックはまさにそういう若者だった。

 この年の7月、クリスが亡くなった。

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